◎地球の代数
由木名緒美
あなたの表情が澄み渡るような青天から
薄暮れの黄色へと変遷する様を
手の平から零れ落ちる砂を見るような非力さで見届け
伏せた瞼に抱き留めていた
もし心臓の代わりに
胸の内に地球が瞬いていたなら
彩とりどりの光が島を照らし
個性の無限を現わし出すだろう
けれど天文学的な数の星々に隠れて
奇跡の球体は今日もひしめく命の信託を一身に受け
老いの螺旋をゆるやかに周回してゆく
今したためる言葉が あなたを繋ぎ止めるとして
歓びは事変のように哀しみを躍らせる
氾濫する幸福に身を浸すには
もうしばしの円熟が必要のようだ
静かな住宅街で
ただひとつ明かりが灯されたこの部屋は
さながら絶海の孤島のよう
静けさを肺に吸い込み耳を澄ませる
変化は猶予を待たない
ざわめく予感に息を乱しながらも
光の枝々を結ぶ偶像の眼差しに瞬き返して
この胸腔で微笑む地球の回遊に鼓動を預けた