路傍の一生
這 いずる

【10/24】
スマホを眺めながら犬の診察を待っていた
出てきた先生は犬は死んだと言って
ああ、そうなんだなと思っただけで
可愛がっていたはずなのに
犬は気難しかったから
私に懐かなかったし
って言い訳して
大して悲しくなかった自分をなぐさめた

この世以外に行った犬をうらやましくは思えども
前々からなんとなく居た犬だったから
心に一滴のしずくをも落とさないまま
死んでいった犬
その死は私の影を濃くして

【7/7】
さみしいままでいた自分をなぐさめるのは
物でしかなくて
人や感情は、あっという間に私を通り過ぎていった

産んだ我が子に愛情のかけらを捧げども
それが本当なのかわからないまま
私も知らないままだった

男は私から子を取り上げ
私にさみしさだけを残した

残された私は今
ここにいるのに誰もが素通りする
物だけが私を囲み
なぐさめてはくれる

それだけ
なぐさめるだけ

それ以上の何かはあるはずもなく

【00】
なくしものは出てくることは少なくて
失って居続ける現状は
虚無感ばかり募らせて

一人空を見上げては
ため息を吐くことすら疲れてできなくて
ただ眼を見開き涙の落ちないように
乾かすだけだった

そんな生活をもう一生の半分も過ごしていて
このまま変わらないのだと知っていた

ああ、季節の巡りよ
果てのない人生の繰り返し
私を早く置いていってくれ

【19】
訳の分からないまま、生活をしていて
それでいいの、と頷いていた
馬鹿な私
その時は幸せだった
確かに生活は幸福の形をしていて
人それぞれに幸福の種別はあるからって
自分をなだめ

おかしいはずなのに
怒鳴られ、殴られ、金を取られ
それは当たり前のようにあったから
人と比べることなんてしなかった
幸福なあの頃の生活

【000】
振り返れば幸福は至る所にあって
気が付かなかった自分を笑い
路傍の石を拾い、大切に撫でた
それが幸せっていうものだろう

陽に照らされていた石
ほのかに温かかった


自由詩 路傍の一生 Copyright 這 いずる 2015-11-02 09:11:32
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