沈黙へ捧げる秒針
ただのみきや

銀杏の葉が落ちる
一葉 また一葉
かすかな気配がする(するはずだ)
木との繋がりを絶たれる
そっと地に触れ横たわる
――オト

わたしには聞き分ける耳もなく
世界は喧噪に満ちていた

叫ぶことを許された人たちが
自由に声を張り上げる
誰かが単純化した
数式のごとく解けるかのように
新しい口紅で縁取ったスローガンを
大勢で声を合わせて
叫んでいる顔は憂いでも
脳は濡れている

地球から滑り落ちる
一人 また一人と
胸を踏まれる冷たい感触とその消失
真空の彼岸へと遠ざかる
虚を突かれた顔 そのままの
――オト

わたしには聞き分ける耳もなく
時代は喧噪に満ちている

だが沈黙しか所有を許されなかった
あなたがたの
オトを殺して降り積もった
黄金色の翼はいつまでも叫ぶだろう
純粋に声を持たないまま

泥に根を置きながら花顔を誇らしげに上げた思想が
たったひと夜で首をはねられたとしても
時代が大蛇のようにうねり逆流しても
これこそ自らの意思と酔いしれ踊りながら
体よく踊らされていたと思い知らされる放射冷却の朝も
固い種子として越えて往け
文字よ結び目きつく今は解かれぬまま

銀杏の葉が落ちる
尚も季節の車輪は軋むこともなく
わたしはセンチメンタルの手を取って
冷たい光に息を吹き入れる
展開された喧噪は箱の形へと戻り

聞き分ける耳も見分ける目もない ただ
この墓標のようなものの影は追って往くだろう
時代の沈黙を名指すために



                《沈黙へ捧げる秒針:2015年10月31日》











自由詩 沈黙へ捧げる秒針 Copyright ただのみきや 2015-10-31 23:15:02
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