ガム
あおい満月

肉を食べたはずなのに、
私はさかなを吐く。
さかなたちは私の咽喉から、
ぴしゃぴしゃ、
躍り出て、
シンクのなかを満たしていく。
ぎらぎらの鱗を翻し、
ちいさく大きな目玉が私を視ている。
蛇口を捻って流そうとすると、
さかなは銀色の牙を剥き出しにして、
この腕に噛みついてくる。



夜は赤い獣に喰われて暮れていく。
さかなに噛みつかれた傷口を
赤くうねる小さな生き物がおおいつくす。
くちゃくちゃ、
ガムを噛むような音を引き摺らせて、
生き物は私の腕から風に身体を泳がせる。

***

部屋中に赤い生き物がうねり出す。
壁の隙間や窓の燦からあふれでる赤い生き物は、
私の足元をのぼって耳から浸入して、
網膜を食んでいる。
視界が赤くなる。
私は目を開けてはいられない。

涙のなかで、
赤い生き物たちは
交尾を繰り返す。
染色体のような、
この赤い生き物は、
昔、友だちと水溜まりで見つけて、
踏みつけて遊んでいた糸蚯蚓に似ている。
糸蚯蚓の怨念が、
増殖を繰り返し、
私たちを蝕みにやって来る。
赤い夜は永遠に続く。


自由詩 ガム Copyright あおい満月 2015-10-27 20:17:55
notebook Home 戻る