白い部屋
愛心

目が覚めると、私は小さな部屋にいた

殺風景な部屋だった。
真っ白な壁。部屋の四隅を示すように、上部の硝子が嵌め込まれた窓から差し込む光が唯一の光源だった。
家具などはなく、代わりに、部屋の中央に見たことのないテクノロジーの塊みたいな機械が鎮座していて、触れられないよう有刺鉄線で囲まれていた。

外へと繋がっているのは、小さな窓のみ。
扉もない。なにもない。少なくとも私が生きるためのものは何一つ見当たらない。

私の興味は私へと向いた。

なぜこんな部屋にいるのか。この奇妙な状況を整理しようとしたが、何も思い出せず、頭の中にもやがかかったように空白ができたままだった。
囚人のような衣服を着せられているが、私が一体どんな罪を犯したというのか。
手足に鎖はなく、乱暴なことをされたような形跡もない。
私には手がある、足がある。
目がある、耳がある、鼻がある、口がある、歯がある、舌がある。
四肢の不備は感じられない。だが、思い出せない。
私は何者だったのか。
名前は、年は、家族構成は、どこに住み、何をして暮らし、生活をしていたのか。

私は何者だったのか。

時計もない。外の光が自然物か、人工のものかも分からない。
分からない。何なのだ。これは夢か、それとも現実か。
有刺鉄線に触れた。肉が裂け、痛みと共に、真っ赤な血が滴った。

生きていることだけは確かなようだった。

どれくらい時間がたったか分からない。

大声で叫び、壁を叩き、よじ登ろうとして、今行っていることが何の変化も起こさないことに気づいた。
私の血がついた有刺鉄線は何事もなかったように、目が覚めた時とそのままの状態で機械を囲んでいる。

ここは、私は、一体。

生きているのか、死んでいるのか。
夢なのか、現実なのか。
私は生物なのか、それとも無機物なのか。
何かを思い出すどころか、思考が少しずつ死んでいくようだった。

傷に触れた。
この感覚は痛みなのか。熱なのか。

私はなんだ。

なんだ。

わたし
私?
ワタシ
私。
わたしワタシ私ワタシわたしワタシ私私ワタシわたしワタシワタシわたし私わたし私













シュレーディンガーの猫
まず、蓋のある箱を用意して、この中に猫を一匹入れる。
箱の中には猫の他に、放射性物質のラジウムを一定量と、ガイガーカウンターを1台、青酸ガスの発生装置を1台入れておく。
もし、箱の中にあるラジウムがアルファ粒子を出すと、これをガイガーカウンターが感知して、その先についた青酸ガスの発生装置が作動し、青酸ガスを吸った猫は死ぬ。
しかし、ラジウムからアルファ粒子が出なければ、青酸ガスの発生装置は作動せず、猫は生き残る。
一定時間経過後、果たして猫は生きているか死んでいるか。


















貴方の世界は真実ですか。


自由詩 白い部屋 Copyright 愛心 2015-10-21 22:35:32
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