蜜柑
あおい満月
(さびしいと思うこと)
それももうなくなった。
皆、鏡の向こうにいってしまった。
だから、
これからは窓を開ける。
東の空の向こうが
赤く滲んでいる。
その赤い光をなぞり道を拓く。
一本の道の真ん中に石ころがある。
石ころの声を聴く。
(ここから先に、何が見える?)
あたたかな手のぬくもりを感じると
石ころが囁く。
夜のネオン街の迷路を
転ばぬようにといつも支えてくれたあの手を思い出す。
そう、あの手だ。
どうして、今まで…。
気がつかなかった
自分の浅はかさを後悔する。
唇を噛みしめると、
酸っぱい味がした。
熱が皮膚から溢れ出して、
帰宅中の総武線を下りから上りへと引き返す。
会いたくて、会いたくて、会いたくて、
繋がらない電話を握りしめる。
熱いものが、頬を伝う。
数分後、
掛かってきた電話に
私はあたたかな安堵で満たされていく。