人生万歳
ただのみきや

政府はよく骨太の方針を出すが
ぬけぬけと骨抜きにもする
新しく入った男は肉厚の女が好きだと言った
肉だって赤身と脂身で違うだろう
体脂肪率は見た目では解らないさ
マグロに関して言えば赤身が一番好きなんだ

同意は求めない説得もしない表明するだけ

労働者のカルシウム不足が経済の足腰を弱めている
レモン1000個分のビタミンで誤魔化せやしない
赤ちゃんのほっぺはすべすべだが
市街戦で焼かれておれたちの肌はザラザラだ
《おれも以前は赤ちゃんだったのね》
面の皮に至っては象の尻

骨抜きにされたいと想う心底
蜂蜜と芥子汁を混ぜた香油で蛇みたいに
光る身体
異国の巫女のような幼顔の娼婦
悪魔でも
比喩だよ

そう比喩なんだ
骨抜きにされた男が
骨しかない政府に立ち向かう
大腿骨に小便ひっかけてやる
尾てい骨や恥骨をいじくり回し噛みついて
《依然として赤頭巾ちゃんのフリをする》
おれは富裕層を憎んでいる
《本当は羨ましいけど》

比喩なんだ
冬の日差しに油絵となる
空に残された柿ひとつ
《あれは富有……

言葉は黙している 
こじ開けられた胡桃の殻

おまえは黒船じゃない
おまえは難民だ
それがご自慢の大砲かい
ここではそんなの豆鉄砲さ
祭りの射的のコルク玉よ
重心の悪いキャラメルあたまを揺らす程度
火を操る物書きたちには響きもしない
回りの杭をやたらに叩いてみたところで
おまえの背が伸びる訳じゃない
自由の国がおまえを試しているよ
裸の王様にもなれやしない
露出して騒いでみたところで
もともと王様じゃないんだから
飽くまでも比喩
飽くこともなく比喩また比喩

僕たちは星の数ほど金平糖を捧げ合った
目の裏 月の裏 壇ノ浦
銀色に響くリュート 盲目の吟遊詩人
嘘だ 捧げ合ったのは嘘だ 
目から流れ鼻も口も塞ぎ耳はウサギ欹てて言葉かみ砕き
痴まみれの稚魚まみれのモゴモゴのお道化た誤読の泡沫に
膝を崩した長い触覚の神霧虫だった

尊敬を与え合うなら
灰の中から金歯を拾い上げるように
風に飛ばされるだけの互いの言葉から
見つけようとするだろう 価値あるものを
見下し蔑むなら
己の形の小さな型枠で切り取ったことに気付かずに
歪んだクッキーにしか見えないだろう
詩語の中に身投げしたその愛も苦しみも

いいさ
毎度のことだから
潮だまりのように
人は流れ込みゆるゆる過ごしやがて
齟齬し潮が満ちる
波が連れて往く
さようならあなた
出世魚みたいに名前を変えて何度でも帰っておいで

開くまでも
比喩 開かずとも
開かずの箱の鍵は
限りなく透明で軽いもの
《嘘々そんなものないよ 裸のシロンメロン》
明けるまで夜がこの蛍火の翳るまで
ああ無論水かけ論を立て板に流しながら
口移しでマロングラッセ
祈りつぶやくようなそぶりで
そっと舌でねじ込むように
いつか骨抜きにしてほしい
おれはもう何年も白骨死体のままなんだ
比喩なんてもう飽き飽きだ
悪い詩人におれは騙された
もう何年も白骨死体のままなんだ
アバラの鳥かごで飼っている
得体のしれないものがある

そんな嘘が
そんな比喩が
憂鬱に夕日が華麗な凶が歯車が
悲鳴を上げてまぐわいながら
本当のことを言っている
心臓が
あなたの耳がそう頷いた
冷たく暗い夜に

さようなら人生あっという間です
万歳しませんか
お国のためでも陛下のためでもなく
会社のためでもありません
万歳しませう自分のために
よくぞここまで生きてきたと
悲劇を喜劇へと書き換える脚本家
爆弾は抱えたままで構わないから

歯車が笑うように鳴いて




                  《人生万歳:2015年10月17日》









自由詩 人生万歳 Copyright ただのみきや 2015-10-17 23:49:24
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