喪失
為平 澪

もう、疲れてしまった。
美しいものは、等しくコトバにできない、ことや、
瞼を瞑ることでしか、思い出せないと言うことを、
眠らない心が捉えてしまったのだ。

夕焼けすら 同じように見えないのに
ぼくたちはキレイだね、という形容詞でくくる。
その、安易な感情の素直すぎる未熟さを、
純朴という名詞でかたずけたあと、
ぼくらはぼくらのノートに
それぞれの 夕焼けの花を描きたがる。

ああ、美しいものに、コトバはいらない。
感嘆の母音のあとにくる、コトバの喪失、
涙が落ちるまでの青い沈黙、
人、独り、沈みゆく赤い炎の背中をみせて、
その最期の閃光をあなたに受け渡すとき、
何を語ることができようか、

太陽が滲ませる 熱い水の苦さ
人が過ぎて行く時に見せた佇まい、夢の燃え殻、
そして、私の嗚咽

美しさを意味で汚してはならない。
去り行くときを止めてはならい。
コトバは失われた時にこそ、煌めきを増す。


自由詩 喪失 Copyright 為平 澪 2015-10-16 23:15:27
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