喪失
為平 澪
もう、疲れてしまった。 
美しいものは、等しくコトバにできない、ことや、 
瞼を瞑ることでしか、思い出せないと言うことを、 
眠らない心が捉えてしまったのだ。 
夕焼けすら 同じように見えないのに 
ぼくたちはキレイだね、という形容詞でくくる。 
その、安易な感情の素直すぎる未熟さを、 
純朴という名詞でかたずけたあと、 
ぼくらはぼくらのノートに 
それぞれの 夕焼けの花を描きたがる。 
ああ、美しいものに、コトバはいらない。 
感嘆の母音のあとにくる、コトバの喪失、 
涙が落ちるまでの青い沈黙、 
人、独り、沈みゆく赤い炎の背中をみせて、 
その最期の閃光をあなたに受け渡すとき、 
何を語ることができようか、 
太陽が滲ませる 熱い水の苦さ 
人が過ぎて行く時に見せた佇まい、夢の燃え殻、 
そして、私の嗚咽 
美しさを意味で汚してはならない。 
去り行くときを止めてはならい。 
コトバは失われた時にこそ、煌めきを増す。