落し物
藤原絵理子
バス停から歩き出した 暗くなった歩道に
街頭に照らされて 燦然と
一本だけ落ちている 大根の葉っぱ
ベビーカーを押す母親が スーパーの袋から落とした
午後7時 今ごろぶり大根になっている
その大根の葉っぱ ひとりでアスファルトに
それが一本の指だったら…
居るべきところに居られなくなる かなしみ
一度損なわれたものは 二度と昔に戻ることはない
年老いた自分を見るのが怖くて
若い女の血を啜った 貴婦人のように
郊外住宅に住むサラリーマンの革靴が 踏み潰す
体液が歩道に滲んだ 大根の葉っぱ
ちりめんじゃこと 煎り付けになってたかもしれない