バラッドのはじまり
……とある蛙

根の堅州(かたす)まで逃げ果(おお)せるか

その先黄泉(よみ)の暗い道順(みちゆき)

荒神谷の奥深く 
人影も無く、道も無く
鬱蒼(うっそう)とした下草と
室(むろ)を作る地(じ) ジメジメと
杉の巨木が屹立(きつりつ)し

巨木の根元(ねもと)に暗い穴
深く暗くてジメジメと
暗い穴から 出でるもの
ふわふわふわふわ漂って
ぼーっと光る霊(たま)一つ
気に纏(まと)わり付く発光体(ひかるたま)
ボーッと光る球(たま)一つ
風に揺らいで漂(ただよ)っている。

闇夜の筈(はず)のその森の
そこここ光る 獣(けもの)の眼
猩々(なにか)が ゆっくりゆっくりと
半身が次第に起き上がる。
頼りは漂(ただよ)う球の灯(あかり)
それを遮(さえぎ)る夥(おびただ)しい
汁(しる)の腐(くさ)った臭いの滴(したた)り
その滴(したた)りを避ける猩々
その猩々が走りだす。
漂(ただよ)う球体(たま)に導かれ
次第次第に走り出す。

空は見えない。森の漆黒(しっこく)
天蓋(てんがい)に覆(おお)われ
闇夜暗闇(やみよくらやみ)の中の
湿気(しっけ)を感じ
ただ発光する球体(たま)
それを追う猩々(なにか)が走る。

放射線を発っし、光る球体(きゅうたい)に
あたりの樹々(きぎ)の樹皮(じゅひ)の色
一瞬のうちに変化する
走った先の森が割れ
偶然、途切れた草原(くさはら)で、
頭上に夜が現われる。
漆黒(しっこく)の闇夜が嘘のよう
空は暗く晴れ渡り、
雲の大きな切れ目から
星の光が降り注ぐ。

夜空に向かって球体(きゅうたい)は
その発光した球体は
ふわふわふわふわ上って行く。
斜めに感じる黒い月
月の視線は、猩々(なにか)を凝視(ぎょうし)
キラキラ沈むチャフが舞い
猩々(なにか)の周辺に漂(ただよ)っている。

その猩々の視線はチャフに遮(さえぎ)られる
それでも球体の光を見失わないまま、走り続けた。

 東の空がぼやけながら光の矢を放ち始め
 彼我誰時(かわだれどき)の薄闇(うすやみ)に
 その猩々は走りながら覚醒(かくせい)する。
 覚醒したその猩々に

半島から曳(ひ)かれてきた猫の額
中つ国の明日が掛かっている。その
猩々の立ち止まったところ、堆積さ
れ何年も放置された放射線を発する
水が地面から湧き出ている。取り残
された大地だ。周囲は盆地、瀬戸内
へも中海へも行ける陸海路の要衝

ここから最初のクニが始まる。


自由詩 バラッドのはじまり Copyright ……とある蛙 2015-10-14 16:43:18
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