抜け殻
桶谷

夏に収穫した蝉の脱け殻を
一こずつ街外れまで並べていって
こっそり隠れていたら
どんな妖怪が現れるだろう
大きな蝉小さな蝉
脱け殻を地面に置きはじめると
向きにこだわりを見いだしてしまい
一つずつ一つずつ
並べていこう
やっと太い欅(けやき)まで導くと
疲れや達成感のためだろうか
眠りこんでしまった
目覚めると夜は更けて肌寒く
脱け殻は月明かりを帯びて
生きているようにも見えた
そもそも夜中に一人というのは
これほど心細いものかと天を仰げば
月はくっきりと白かった
そして女の声が話しかける
こんばんはうんこ坊や
うんこ坊やはびっくりして応えた
わんばんこ
れあだ
うんこ坊やは再びおどろいて
声は笑いはじめる
確かにこんばんはと言ったんだ
わんばんこ
ちんう
む!
かあ
おあ
りどみ
楽しそうな笑い声は
不安の膨らみと戯れているよう
試しにわんばんこと言ってみると
声は黙ってしまったので
振りかえり見まわしながら
わんばんこわんばんこと言うと
耳もとを温もりが覆い
わんばんこと言ったきり
静まりかえってしまった
何だろう
ぼんやり立ちつくしていると
くしゃくしゃと忍び寄る音が聞こえて
おばあちゃんうんこ坊や現れたので
うんこ坊やはゆっくり右手を挙げて
わんばんこと言ったが
おばあちゃんうんこ坊やは
なんだこいつと覗き込むようだった


自由詩 抜け殻 Copyright 桶谷 2015-10-10 23:57:09
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