四丁目の花屋さん
もっぷ

ご近所の
あまり繁盛はしていない
お花屋さん
三代目とか、で
商店街に下りる 区からの予算で
やっと 食べている……
って
三代目だから 役員をしていてね
お店を開いているだけで
暮らして、いけるんだよ
申し訳のないことなのだけれど

最初 頑なだったご主人
通ううち こころ開いてくれて
ある朝 忙しそうに仕入れたばかりの花束と
格闘していた
会釈だけして 通り過ぎようとしたら

作業の手を止めて、
わたしを手招きしたの

ほら、この百本のバラの花
一本いくらで仕入れているのか
わかるかい?
売値は、三百円
だけど、仕入れは九円だった

ほとんど……
生ゴミに なってしまうけど
この花の 最低取引数なんだよ

いつになく 饒舌なご主人
お酒のせいではない
この方は お酒はやらない
たまに お店の裏へ出て
タバコを燻らして また
少しばかり積極的な店番か、商品の花の手入れか
あるいはただ むっつりと
遠い目をして 奥の椅子に腰掛けている だけ

ご主人のフラワーデザインが好きで
ギフトには 必ずこの、お店のお花を
扱ってもらって 相手に贈っていた
普通のお店のお花よりも ずっと
ずっと
長持ちする
センスもいい、けれど
ご主人 どうしても怖い顔しているから
やっぱり また
生ゴミが増えるだけ
なのかしら

お店の涼しいところに置かれた
珍しい花に目をやった
名前、知りたいか

尋ねられ
いえ
と、応えた
自分で調べたいですから

……もしかしたら ご主人は
話し相手がほしかったのかしら
返事、失敗したのかなって
ドギマギ
してしまった

珍しいお花 買って帰りたかったけれど
これから出かけるところだったから
帰宅時には
って
そう 思いながら
わたしは歩き出した

少しだけ
(本当は、とっても)
泣き出しそうな顔した ご主人
初めて見た

時計が
許さないので
切ない想いを 持て余しながら
ご主人に
行ってきます!

できるだけ、元気良さそうに
笑顔を見せて
その場を
立ち去った



自由詩 四丁目の花屋さん Copyright もっぷ 2015-10-10 03:17:55
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