日常
イナエ

今日も
野菜といっしょに売られる
店員の呼び声に包み込まれて
行儀良く並んだ大根の色つやを見比べ
身長と体重を確かめているあなた

 それは昨日  
 あなたから延びた手が
 子宮にしがみついたへその緒を引き剥がし 
 空に開いた緑の髪を切り落として
 産湯を使わせたもの

大根をつかんだ手にもう産声は聞こえない

ショウケースの皿に盛られた鳥
遠赤外線に炙られててらてら光る火傷の跡に
美味を嗅ぎ取り 行列の後ろについて 
買えるかどうか心配しているあなた

 それは、昨夜 
 口の周りを脂で汚して食う人の姿を思い浮かべ
 頭を切り落とし つり下げて血を抜き
 羽をむしり 火に炙ったのは
 あなたの延ばした手ではなかったか

明るい電灯の下で家族そろって 
笑いながらテレビを眺め 
盛られた刺身を箸でつまみ上げたあなた

 腹を割かれ内臓を抜き取られ 
 切り刻まれて小舟に乗った魚肉と
 天を仰いだ頭が漏らす音のない声

あなたの耳は聞き取ることなく
喉の関を通す

今日も あなたから伸びた手が
太陽と遊ぶカボチャやトマトをもぎ取っている
地球の羊水から
攻撃することを知らないマグロやアジを
取り出している
牛や豚を麻酔もかけずに切り裂いて
人間の尊い命をつなぐ作業をしている

ことでしょう
笑みさへ浮かべて 


自由詩 日常 Copyright イナエ 2015-10-08 18:37:36
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