水へ 水へ
木立 悟





人 人 おまえは
ひと
噛み砕き
噛み砕かれ
野にあいた
暗い穴の淵に横たわる


天気雨
小さな蜘蛛が隠れる場所
風が
少しずつ少しずつ
強くなってゆく


つばくろ
荒れた筆の曇
少し傾いで
一滴の
色を吹く


雪が鳴り
歩き去る
窓を閉め
光は残り
舞いながら
舞いながら
光は残り


雨の帽子
視線の定まらない
水の覆い
朝を被る朝の網
したたる ひとつ
したたる


怪我をして
つまらなそうな鳥のはばたきから
午後はこぼれ
口に入る
蒼と灰と 丸と四角 


花の奥を歩く音
音を踏まずに歩く音
幻の指をひらき
数えることなく包み込む
ただ 消えるばかりのものたちを


水へ水へ
短い虹へ
密生する淡い光の森へ
降りそそぐ無数の水紋へ
ひとりの人のかたちの空が
標の指をまたたかせてゆく























自由詩 水へ 水へ Copyright 木立 悟 2015-10-03 02:46:03
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