アイスクリーム
ありか

爆破された夜の屑が月の縁を滑っている
そこはどうぶつのように
けたたましく吠える滑走路
無限が限界突破するときのエネルギーを
絶対に忘れたくなくて日記をつける
取り込み忘れて風に揺れる洗濯物が
悲鳴をあげて今日という日を刻む
言葉で自身を埋め尽くしていくわたしは
くちびるの皮を剥いたばかりだ
まもられている肉体は なにも気づかない

日記をつけたあとは かみ砕いて飲みこむ
きみのようにつよくないわたしは
消化にまで時間をかけることが
できずにいる
リズム、リズムをとり、
ページをめくる音にのせ体を揺らすと
無限の世界が膨張してゆく
明日は晴れ 誰かの答えに賛同する

鉛筆を振り回して思考を飛散させ
そのままのらねこを捕獲する
ねこどもの肉球は
かれらが日ごとに踏みしめるいくらかの影を
含んでおり 吸収しては黒くなる
眠くなるが
夜は粉々になっているのでこない

きみがいつも吹いていた口笛に
似たような音律の歌声が街を飽和してゆく
だだっ広い街のいちばん隅で
よるべないお姫様が取り残されている
起爆スイッチを押したのは
かのじょだろう
うつくしい歌をくちずさむその横顔は
魔女のそれとなんら変わりはしなくて
かなしい顔でバニラアイスを舐めている
歌声は遠くかすれて
手のなるほうへしか進めないわたしが
憧れていた自由な宮殿での生活は
想像もつかないほど 虚構で満ちている

終わらない丘にきみは立っていた
帽子を取り
なにも出てきやしないのにほほえんで
理由をきく隙すら与えず
自分の影を踏んでいる
靴底の色は黒に違いない
わたしは抹茶アイスなら消化できるので
それを食べながら
きみとは夢でしか会ったことがないことを
思い出しかけて泣いた

吹けない口笛を吹こうと口をすぼませると
ねこどもの物語へと流れてゆく
ねこはそろって滑走路を走りはじめ
月の縁を蹴る
飛びながら肉球を 黒い肉球を
空にいくつもいくつも押し当てて夜をつくる
空は黒く染まって
ようやくわたしは布団にはいることができた
きみに会いにいくのだ

いつまでたってもバニラ味を注文するきみに
今度こそその理由をきくために
一日のうちに凌駕しなければならないこと
一夜では卒業してはならないこと
その境界のただなかにいる
きみに


自由詩 アイスクリーム Copyright ありか 2015-09-28 07:33:27
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