恋人
藤山 誠

そいつは猿の面を被っている
白い猿の面を被っている
くりぬかれた二つの穴から
黒い目玉が見えている
その二つの穴から
暴力の匂いがしている

赤い口紅を隠している
みずみずしい若い唇
猿の面で隠しながら
そいつは男を誘っている
真っ赤な真っ赤な幼い頬と
とろとろにとろけた欲情を隠している

そいつは私を殴るだろう
唇で
指先で
眼差しで
性欲で
その柔らかい肉で

そいつは私を殴るのだ
彼我がなくなるまで意識を溶かして
あまい蜜をのみこんでいく


自由詩 恋人 Copyright 藤山 誠 2015-09-24 21:55:05
notebook Home 戻る