無断投棄
為平 澪

昔 そこに畑があった
住人たちは種を蒔き苗を植え
野菜を作り花を作り 少しばかりの木を植え
土に汗をおとした
笑い声も聞こえた

主が亡くなった畑を 子供は捨てた
未亡人は独り言を捨て 娘は愚痴を吐いた
村の人は生ゴミを棄て
飼い犬の糞を 夜に棄てに来た

夏には草がぎっしり覆い繁り
それらは見えなくなった

子供は要らなくなった自転車を棄て
大人になれば自動車のタイヤを
焼いて棄てた
老人会では そこを火葬場にしようと
市に提案する者も出た

昔 そこに畑があった
先人から代々耕してきた種は
埋もれたまま 結局実を結ばなかった
息子に、妻に、娘に
捨てられたものを 受け止めてきた土壌は
汚染され 刺激臭を放ち
やがて 立入禁止区に指定された

今は 火葬場が建っている
その、端に
主の飼っていた猫の墓があるのだと
噂で 聞いた

そこは昔「畑」と呼ばれていたらしい


自由詩 無断投棄 Copyright 為平 澪 2015-09-24 21:53:02
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