わたしたちはうつくしい城にいた
凍湖(とおこ)
わたしたちはうつくしい城にいた
記憶の赤い海の上にあり
そびえるさまは誇らしく
ひとつの羅針盤として分かちあっていた
それは夢だった
海底に白く折り重なった無数のひとびとのみる
夢であり、祈りであり、墓標でもあり、約束だった
それは大陸にあって
砂ぼこりにまみれた同朋の身を包む
厚いマントになった
それは境界にあって
思うところはあっても
お互いに門をひらき
行き来をする鍵となり
隣人へのまごころの証になった
ああ、それがあったからわたしは撃たれなかった
鉄と火薬をアイーシャやハリムの頭上に落とす共犯にならなかった
悲しみと憤りによって、花を供えることができた
こどもがうまれて
こどものこどもがうまれて
こどものこどものこどもが生まれるほどのあいだ続いていても
その城は
ひび割れたペンキの欠き割りだった
いっときも、願った通りではなかった
ずっと仲間はずれを生んできた
きみの足をふんずける罪を隠すアリバイだった
ぜんぶぜんぶその通りだ
それでも、それでも
大勢の人が叫んだ
おとなもいたし、こどももいたし、白髪あたまもいたし、生まれながらの除け者もいたし、ポケットの小銭しか持たないひともいた
青い制服の強面に押し潰されても
集まった
何ヵ所も、何日も、雨が降っても、日が落ちても
ただ、拠り所を守るために
黒いスクラムのなかで、握りつぶされてしまったけれど
それでも、それでも
あの城が
ただの昔話になるまえに
わたしは、留まりつづける
ただ、ちっぽけなわたしとか、きみとか
唯一の存在として大切にしたいから
留まる。