いつかロマンス風の
ただのみきや

朝の光が問いかける
空ろを残して辿る海辺で
初めから抜け落ちた地図が飛ばされる
一日か百年かも分からない始まり 

わたしは呼び起こす わたしを
塵ひとつ動かすこともない精神で
囚われたまま生きて往く
そんな自由も確かにあった

薔薇色の空/鳩の心臓
ささやかな翼が海を渡る
時は凪ぐ さざめく真珠の上を
安らぎの小さな孤島へと

だがどこまでもなにひとつ
一片の翼休める影すらなく
やがて力尽きて 波に抱き寄せられる
冷たい鏡の奥底


「わたしの言葉があなたの心で翼を休めることはなかった
あの詩はあなたへの恋文だったけど

「嘘さ あの恋は一編の詩に過ぎなかった
ロマンス風に仕立てられた


大義も理想も死ななければ
絶望だけにならなくては
見渡す限りの死の土地で
わたしはひとつのランドマークとなる

野ざらしに葬られることもなく
かつての甘い願望が乾ききり風となるころ
訪れる 死に往く者の唇からそっと流れる
清水のようなメロディーに己が戸惑うように

黒焦げの山林からくっきりと緑が芽吹くように
すべてを無くして笑わなくなった男がふと
通りすがりのベビーカーに目を落とし微笑んでいる
自分に気が付いた時のように

願う余地などない 
希れの兆しとは
黎明の空を雲を七色に暈しながら大地を彫り
変わらないまま変容して往く世界に惹かれ続けること

そのころわたしは女になって
あなたは男になっているかもしれない
恋に酔い痴れた蜘蛛のように
搦め合い互いの毒牙を胸に突き立てて甘く苦く

わたしの空ろは流砂に飲まれた
さようなら時の疎らな足音
貝殻は壊れたラジオに変わってしまった
さあ今は口にしたいものだけ口にしよう




              《いつかロマンス風の:2015年9月19日》








自由詩 いつかロマンス風の Copyright ただのみきや 2015-09-19 20:55:48
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