戦争と平和
紀ノ川つかさ
国会前の反戦デモの様子を
ネットで眺めていて薄ら寒くなっている
彼らは何をしているのだろう?
彼らは戦っているのだ
戦うためには結束しなければならない
結束するには敵を明確にしなければならない
敵を明確にするには
敵が絶対悪であるという確信がなければならない
確信が揺らがないために
敵の善行も美徳も理想も一切認めてはならない
かくして敵は人間とさえ認められず
人の皮をかぶった悪魔のごとく罵られる
かの首相をかつての米英に入れ替えれば
鬼畜米英と叫んでいた
かつての戦争と心持ちは同じではないか
彼らは人を殺傷する武器を使ってはいないが
それが善悪をきれいに反転できるものだろうか
彼らは何をしているのだろう?
彼らは戦っているのだ
真実はここにありと彼らは叫ぶ
しかしその真実は単に
自分が真実と思ったものは誰かに伝達し
真実と思わなかったものは誰にも伝えなかった
その蓄積に過ぎないのではないか
遠い過去の戦争でも
きっと人々はそうしていたろう
「真実」ははじめからもうできていて
それに合うものだけを残してきて
それだけが周囲に満ちていて
それが増強されるたびに「真実」も厚みを増し
人々は高揚していくのだ
気持ちよくなっていくのだ
戦後その「真実」とやらが
すべて間違いだったことに気づかされる
彼らは何をしているのだろう?
彼らは戦っているのだ
しかし間違いなく平和である
弾圧されることなくデモだってできる
にも関わらず彼らは戦争をしている
平和の中で戦争をしている
これの意味するところは
「戦争」の対語が「平和」ではないことだ
きっと「戦争」の対語は「優柔不断」とか
そんなものだろう
「平和を守るために戦争をする」
これは可能だが
「優柔不断のために戦争をする」
これは不可能だ
優柔不断では戦うことはできない
敵を明確にできない
敵が明確でなければ戦えない
彼らは何をしているのだろう?
彼らは戦っているのだ
戦争をしてるのだ
戦争をしながら
反戦を叫んでいるのだ
優柔不断な僕は
ふとんをかぶって寝るのだ