そうやって僕は何回目かの
オダカズヒコ



こんなこと
すぐに言い出すべきじゃなかったし
ぼくはあれこれ言う前に
彼女に確かめるべきだったんだ
見抜くべきだったんだ

今日
ぼくは一人の女の子を
「不幸」にした
何度目かもわからない
確信がある

入社5年目の花奈ちゃんは
実家がケーキ屋さんで
最近
転勤の話が出ていて悩んでいたのだ
27歳
休憩室で
よく
ぼくにお菓子をくれた
殆ど化粧っ気のないその顔で
ぼくの眼を見るその顔は
あどけなく
どこまでも
純粋だった

たぶん
ぼくのことが好きだったのだろう
でも
好きなんてこと
言い出せるわけもなく
休憩室で
お菓子をくれる彼女の手が
ぼくに手向けられた唯一の言葉だった

彼女
辞めたよ
なんで
疲れたんじゃない
まさか
あんなに仕事
頑張ってたのに
ぼくには
一言もなかったよ
だってお前
あいつと親しかったっけ

男と
女の間には
二人だけで交わした会話の中に
暗号を紛れ込ませているさ
秘密のような
スパイスのような
ちょいとしたやつをさ
アンテナにびびびと
響くやつさ

花奈がお前のせいで辞めたって
会社を
仕事を
思い上がりもいいとこさ
だってお前
花奈より一回りも上だぞ

みんな知ってたって
花奈がお前のこと好きなの
だけどお前はどこ知らぬ顔
時々
花奈のやつをおちょくって
遊んでただけだろ?
そうだろ?
人の心を弄んで
罰が当たるぞ

止せよ
俺だって
悩んでんだ
あんな綺麗な子の人生
俺だって
そう簡単には
背負いきれないさ




自由詩 そうやって僕は何回目かの Copyright オダカズヒコ 2015-09-16 22:46:20
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