ばいばい
末下りょう
手のひらをじぶんのほうに向けてばいばいするあの子、ぼくのばいばいの手のひらの向きを子どもの悪戯みたいに真似て、ぼくに手の甲を向けてばいばいするあの子、ぼくとじぶんにばいばいするあの子、ぼくとじぶんにばいばいしてそのばいばいした手のひらはどこに帰るのだろう、それともぼくとじぶんにばいばいされてあの子は誰になるのだろう、なぜかあの子の手のひらにぼくの手のひらが幾つかの平面を重ねながら移行するような、この手のひらはあそこでばいばいしているこの手のひらの幾つかを隔てたもののような、もしくはあの手のひらがこの手のひらであの手のひらは幾つかの平面を重ねる以前のあの手のひらそのもので、この手のひらは少し色褪せる、或いはこの手のひらは鏡のなかのあの手のひらなのかもしれなく、ただそうなるとこの手のひらもあの手のひらのように手の甲をあちらに向けていることになり互いがじぶんにばいばいしてそこに不均衡な羽を持つ蝶を真似る二つの手のひらだけが残されてしまう、そうではなくあの子のばいばいのそのほんの少し手前、わずかな外にぼくはいて、ばいばいしているあの子とあの子の映像の背景に属していてこちら側はすべてに焦点が合ったただの平面的な景色としての螺子だったのかもしれない、あの子にとってぼくはあの子の後ろにいる幾人かの人々のそのさらに後ろであの子が少し高い台から幾つかの帽子を避けながら回す映写機のフィルムに付いた小さな傷、或いはレンズに付いた傷にすぎないのだろうか、あの子はあの子が投射する平面的なあの子に裂けた眼が貫通され、陥没した傷の端と端の無限の距離を隔てた、あまりにもなめらか過ぎるあの子のばいばいの裏側に抜けながら、あの子の半透明に折り重なる幾つかのあの子のばいばいを見たのだろうか、この向かい合う単純な二平面に開かれた小さな傷の眼それ自体が射影として交錯する、誰もが誰とも目を合わさない、瞬きもなく陥没したその裏側で露出した、見つめ過ぎる裏窓に休む鳥が落とした一枚の羽毛