雪原
あおい満月

ししゅう、
死臭を漂わせることばを、
書いてみたいと、
手を伸ばしたそこは
暗闇が続いていた。
私たちは一列になって、
暗く狭い一本道を歩いた。
誰一人声を出すものはいなかった。
熱風が吹いていた。
熱い雨が頬を叩いた。

暗く狭い道の向こうに
白い光が射し込んだ。

(地上だ)

そう思った瞬間
誰もが急ぎ足になった。
ちいさな小さな孔だった。
私たちは孔を抉じ開け外に出た。
足場の悪い大地に躓いた。
冷たかった。
雪原、そうとも思ったが違った。
弾力のある懐かしい匂いが
私たちを包んだ。

(これは)

そう、

(これは、)

(これは、皮膚だ)

誰かが声を上げた。
今、私たちは小さな
目にもやっと映るぐらいの小人になって
死んだ女性の頬の上にいる。
涙に濡れた彼女の睫毛が優しいくらいに
肩を燻る。

きっと、
しとは、
こんな風に生まれてくるのかも知れない。
誰かの死の上で。
いつも何かがはじまっている。
いつか誰かが
私の上で、
死を感じる瞬間があるのか。
太陽が昇ってくる。
赤い火の匂いがする。
女性の身体が
火の中に入っていく。



気がつくと私たちは
普通の身体になって
空き地の草の上で寝ていた。

(僕らは死を旅してきた。もうこれからは、行きたことばを書こう)

誰かの拳に、
皆一斉に立ち上がって
各々の方角に消えていく。
そうしてまた、
一日をはじめる。




自由詩 雪原 Copyright あおい満月 2015-09-09 20:14:33
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