わたしのメルヘン
ただのみきや
公園のベンチに座っていた
そよ風が恋人のように寄り添っていた
古いノートの中で
ことばは悶えた
それとも窮屈な服を着せられて
詩がのたうち回っていたのか
その時ひとひらの蝶が
記憶に落ちる燃えた栞のように
ノートの端に舞い降りて
「一つのメルヘン」という詩を思い出す
暗唱したくても
ことばは墨で塗られたよう
イメージだけが煌々と脳裏を照らして
蝶は飛び去った
途端に文字はすべて消え
ノートは萎れ 灰となり 散り失せた
残された空虚な両の手は
割れた土器の不可逆な顔つきで
あの風も死に絶えた
公園も ベンチも
もう 何処にもない
わたしのメルヘンは終わった
《わたしのメルヘン:2015年9月8日》
*「一つのメルヘン」は中原中也の詩です