静かな時流
たけし

透明に輝く街並み
降りしきる雨空の許
嘘のように広がります

街路樹の緑艶やかに
用水路の水の流れは銀の透明
街道を走る車音すら響き澄む

私の右目はとっくに塞がり
捕捉可能な視野が狭まった分
研ぎ澄まされた直観が
降りしきる雨と共に閃き閃き
新たなもう一つの器官へと
魂のうちに生成されていくようです

街道沿いの歩道をビニール傘片手に行くと
窪みに大きな水溜まりが輪を広げ
中ほどでは裸足の幼児が
けたたましい声を上げてはしゃいでいる両足剥き出しに
若い母親は薄いピンクの傘のなか
半ば笑い半ば怒り腕を組んで見守っていて
そこへ私が水溜まりにバシャバシャ入っていったものだから
幼児も母親もぽかんとして
私は知らぬ顔してびしょ濡れの足
それでも二人を呆れさせて何故かすごく満足

それから車道を横切り住宅街に
青やコンクリーの外壁が綺麗に照り映える
モダンな家が新たに数軒並んでいて
そのぶん昔子供たちと遊んだ野原は失われ
思わず立ち止まってから私は角を曲がり
いつもの急坂を下り森に入ろうとしてビックリ

森が いつも其処から広がっていた森が無いのです
その代わりに川が あちこち渦を巻いて広大な河が広がっています

ナニガアッタンダ?

茫然と立ち尽くして私は河岸から辺りを見渡し
この先駅前まで出る途中にある遊歩道沿いのあの川が
氾濫したかどうかして
すべてを呑み込んでしまったのだ!と気付きさらに茫然自失
ひたひたと自分の足を濡らして来る水の感触も忘れ
相変わらず渦巻く海のような河を見ているうち
そうかこの雨ももうここ5年は降り続いているから当然といえば当然か
そう冷静になりつつ見続けていると
かつての我が家が幾つかの家と共に流されていく
ああと嘆息して空を思わず仰ぐと
黒ずんだ雲の層が一息で引き裂かれ
深紅に輝く巨大な球体
 水色の大洋を掻き分けるようにして
奥底から
ゆっくりゆっくり浮かび上がり
同時に現れたあの森をススススッと吸い込んで
一瞬だけ
色とりどりの紅葉の虹を大洋に掛けました






後には只、
すべてを(もちろんこの私も)溶かし呑み込んで
水色の大洋が
細かく波打ち蠢くばかりなのです。


自由詩 静かな時流 Copyright たけし 2015-09-08 17:38:17
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