◎示唆の行方
由木名緒美

球体は弾けた
その飛散した一粒一粒の種子が
時代をあまねく代弁するかのように
ある方向へと向かって流れ出す

思い出して欲しい
白い腕が守ろうとしていたのは何だったのか
幸運の女神は目を伏せたまま
思わしげな微笑を口元に保ち
過去と現在を繋ぐ各駅列車の車窓は
蛍光灯に照らされた孤独な旅人の帰路を翻弄する
降り立つべき駅は、彼自身も知らないのかもしれない
悲しみと光の速度が同じなら
きっと涙は振り切られた使命の残滓となって
幸う出奔へと降り急ぐのに

誰も彼もが廻る既視感デジャブの円環の中
それが心地よく響くなら放逸など花開きはしないだろう
人は覚束ない足取りに展望を託す
あなたとの戯れがそうであるように
手指は絡み合い貝殻を模倣する

一筋の滴り
それが血であるか涙であるかは
最期の時までわからない
天秤を揺らす到達と未踏が
世界の支柱に震えを刻む
その時こそ、私は溢れ出る価値の奔流を泳ぎ切り
新たな喜びの命名を結実させるであろう


自由詩 ◎示唆の行方 Copyright 由木名緒美 2015-09-08 00:40:22
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