生命の歌
ヒヤシンス
坂を上りきったところには思い出が宿る。
僕は持ってきた手帳を開き、使い古した万年筆でそっと言葉を描く。
生命の継続。生命の継続。生命の継続。
三回繰り返すと不思議とその場所には新しい生命が宿る気がする。
何度も通ってきたはずの道に新しい命が宿る。
永遠の道程。おぼろげな記憶。憶えたてのあぜ道。
不思議と命が生きてくる。
沸き立つ感性。触れると壊れてしまいそうなガラスの道。
寂しげな音楽が奏でられると記憶の底にある島が宙に浮かんでいる。
見たことのあるようなないような不思議な感覚。
そわそわと命が生きてくる感覚。
生命とは不思議なものだ。
僕はこの一瞬の感覚を忘れまいと手帳に記す。
今日の日付と生命に対する驚きとを。