朝の日記 2015夏
たま

六月の雨が
育ち盛りのスイカをいたずらに誘う
でも、今年の梅雨は少々しつこくて
早くも冷夏の予感がした
ナスビもトウモロコシも痩せたまま太らない

繁茂するのはスイカのツルと葉っぱばかり
それでも虫まかせの受粉は思うように進まなくて
ソフトボール大に育ったスイカは
たった、ひとつだけ
さすがのわたしもこれはマズイと思った

スイカ栽培は十年ほどになる
人工授粉はしないでずっと、虫まかせにしてきた
それでも多い年には三つとか五つとかとれた
スイカのツルに黄色くてちいさな花がつく
その花をよくみると雄花と雌花がある
雄花を指でちぎりとって、雌花の柱頭にこすりつける
それで受粉は完了
すばらしく簡単なしくみだった

生殖にかかわるしくみは例外なくシンプルだという
でも、何かひとつ欠けると成功しないらしい
あの夏の日、
わたしの財布には産婦人科の診察券が入っていた
家内と通った産婦人科だった
何かひとつ欠けていたということになるだろう
その何かが、
医学によって補われることもあるという

大きくて甘いスイカを育てるためには
人工授粉は必然のしくみだった
でも、それをやらないで虫まかせにしたのは
わたしの選択であって、誤りではない
ひょっとして虫嫌いのスイカだったのかもしれない
というか、たぶん
今年は虫が少なかったのだと思う
飛んできたのは虫ではなくて麦わら帽子だったのだ

七月下旬のこと
スイカ畑には大玉スイカが六つも育っていた
やれやれ、
これで今年は人工授粉の恩恵にあやかれると思った
ところが、残念なことに雨が多すぎたのだ
大きくても甘味が足りない
やはり、冷夏だった

夏は来ないといけない
でも、夏が来ない年もある
わたしの人生に夏はいくつあったのだろうか
足りないものはいくつあったのだろうか

すばらしく簡単な夏
すばらしく簡単なしくみ

簡単に生きられないわたしは
やはり、そんな夏が好きなんだと思う
もう二度と帰らない夏たちが懐かしいけれど
それでいい
また来年、会えたらうれしい
畑はいつか枯れるもの
惜しむものは何ひとつない
それがいい
すばらしく簡単な人生がいい













自由詩 朝の日記 2015夏 Copyright たま 2015-09-05 12:22:37
notebook Home 戻る