十和田湖へ 2003,10,29
瓜田タカヤ


休日
午前中に何とかおきて、家族みんなで十和田湖へ行った。
天気は非常にやばそうな雲いきであったが、それでも
この時期(紅葉の秋)を過ぎてしまうともう行かないであろうなあという
思いもあり意地になって出発。

後藤伍長で有名なあの映画八甲田山の八甲田を抜けひたすら
南へ山道を進んだ。木々が乱立する斜線越し、太陽光がストロボフラッシュのように
絶えず窓から差し込んでくる。
冷え切った空気を、大量の枯れ葉が撹拌し、その中を無分別に車は滑りぬける。
キャロル・キングとかが似合うんじゃないの。ダサおしゃれっぽい感じでと
ノスタルジーさでね。

途中で足だけお湯につかる、そのままの名前なんだけど足湯というサービスを
行っている温泉の広場で休憩。コーヒーと筍の味噌おでんと抹茶とかを
足湯につかりながら頂き、大変まったりとした時間を過ごした。
がこの時間が一番和む時間であった。

その後、奥入瀬渓流に差し掛かり様々な、滝や紅葉を見た。
狭い車道には、巨大なマイクロバスが停車している姿を
何度も見かけた。平日とはいえ、秋の紅葉シーズンの奥入瀬周辺は
混んでいた。観光客らはそれぞれにビニール傘をさして激しい滝らを観賞。
その傘らは、滝のしぶきよけに使用されているのではなかった。

それはそのままの用途をなしていた。
雨が降ってきましたのだ。やばいですなあ。

カイリは出かけるときに玄関で、長靴を履いて行くと きかなくて
俺とかみさんは、もう!じゃあ勝手に長靴で行けばいいじゃん。と
天気の良い午前は話していたのだが、雨が降った事により
カイリの勝ちって感じだった。

そして・・
俺たちは十和田湖についた。
・・・雨が大変に強く降りしきる湖へだ!

思えば仙台に行った時も雨だったんだよな。と思いながらそれでも
テンション低いみんなを無理やり車から降ろし、
カミサンにビニール傘を売店へ買いに行かせ
乙女の像がある方角へベビーカーを押しながら歩き出した。

湖に沿った小道は、更に強風で寒くて凍えそうであり、
俺の心は折れそうになった。がそれをごまかそうと
無理やり きりたんぽと大根を煮込んだものを買い、
一旦お土産屋に入って、少し雨がやむのを待とうと提案した。

お土産屋店内にある休憩所にて、俺たちは きりたんぽを食ったり
カイリは店内の、ショボイオモチャを物色したりして、雨がやむのを待つ。
雨はきっと一時的なものさ。と自分に言い聞かせて。

カイリは音楽が鳴るバトンのオモチャがどうしても欲しいと言い出した。

カイリはうまい棒を買うための自分用財布の金を
テーブルにだし、「コレで買える?」と聞く。

それは80円だった。バトンのオモチャは800円だった。

俺はカイリの財布に入っているお金じゃ買えないよ。
といったら「パパ1000円持ってるから、カイリにオモチャ
買えば良いじゃん。」と言った。
しばらく買う買わないでもめるが結局買ってあげてしまった。

その間も一向に雨のやむ気配はないので
思い切って雨の中、乙女の像まで突き進むことにした。

カミサンは、まったく乙女の像を見たい気持ちなど無いといった様子で
むしろ、帰ろうよといったオーラを発しまくっていたが、
俺は気づかない振りして赤ちゃんの乗るベビーカーを押して、外へ出た。

乙女の像に向かって、ベビーカーを押す男とその妻と
はしゃぐ幼児。湖面に漂いぶつかり合う白鳥を模った船らは
この暴風雨の中無理やり、乙女の像へ向かおうとする
津軽の中途半端な家族らをどういうまなざしで見ていたのだろうか。

行けども行けども、悪路が続くばかりで一向に目的の場所へは
たどり着きそうも無い雰囲気になった時、かみさんが笑顔で言った。
戻ろう。と。

俺は、すこし悔しい気もしたが
「誰か止めてくれ」と言う微妙な思いも、確かに精神に付着していたので
さっぱりした。

話は前後するが、乙女の像とは裸の女が二人向き合って、お互いの手を
合わせている像だ。十和田湖に来たらここに訪れなければ駄目である。
むしろ乙女の像が十和田湖であると言っても過言ではない。

俺は車内でカイリに、十和田湖に行く事を少しでも楽しんでもらおうと思い
「乙女の像っていうのは、人間が石にされちゃって
 固まってるんだよ。だからそれをパパ達は助けに行かなきゃ駄目なんだよ。」
とニヤついて話していた。


雨の中、十和田湖に着き、駐車場から降りてお土産屋が立ち並ぶ通りを
歩いていると、カイリが突然たじろいだような、少しビビッテいる様子で叫ぶように言った。
「コレが乙女の像なの?」
カイリは石にされたその人間を助けなければならないと
本気で思っていて、俺に真剣に報告してきたのであった。

俺はカイリのまなざしの先を見つめた。
暴風雨の中その人形は物言わず立ちつくしていた。

それは店先に設置されていた、
梅宮辰夫の等身大人形。タッチャン漬けの販促人形であった。

コレは助けられない・・。

俺は笑って、デジカメを取り出し、
辰っちゃん人形の写真を撮ろうとしたが
色々な荷物を持っていて、撮るのが大変だったので
それをやめた。


散文(批評随筆小説等) 十和田湖へ 2003,10,29 Copyright 瓜田タカヤ 2005-02-14 03:51:02
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