シーズン
凍湖(とおこ)

線香の白い煙の糸がたちのぼる
追って見上ぐれば
黒い梁から見下ろす遺影の果て
白い路(みち)はほどけてく
おそらく、天上界まで届いたあたりで

夏は喪のシーズンだ
祖霊が帰り
私も帰り
追悼特集と記念日
積み上げられたおびただしい死が
さながら数珠のごとくつらなる

野放図な夏草は皮膚を切り
蝉はなき
トマトは赤く、ナスはたわわで
うるさいくらいに
栄えているのに

喉はガラガラ
墓石は汗をかき
皮膚は脂となってとけていき
頭髪は鉄となり焼ける
それでも花を供え
ただ偲ぶ
そういう季節だ

そういう季節に
目と耳を亡くした
舌ばかりの詐欺師たちが
粛々と、いのちの礎(いしずゑ)より
要石を抜き盗っていくのを
とらえきれずに
むざむざ、毒沼に沈んでいく
ことを選んだことになっていた、ことしの夏。


自由詩 シーズン Copyright 凍湖(とおこ) 2015-09-03 03:07:46
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