Rain Fall Down
ホロウ・シカエルボク
呪いのリズムで降る雨が
窓の外のリアルを囁いている
昨日よりは少しまともな頭で
昨日よりもくだらないことを考えている
なにひとつ語るべきことのなかった
今日が変更線でゼロになる前に
傘のない迂闊な数人の女たちが
けたたましい声を上げながら走り過ぎていく
彼女らはずぶ濡れで
俺はそれをここで眺めている
俺の身体には滴ひとつありはしないけれど
だから俺が彼女らより幸せかというときっとそうでもない
幸せなんて馬鹿にしか訪れないものだから
俺は人生が厭になっても
コンビニエンスストアで駄々をこねたりしない
許してくれる誰かを殺したりなんかしない
人でごった返す繁華街に車で突っ込んだりなんかしない
厭になっても人生には違いないので
同じ調子で飯を食い糞に変えて出す
証明出来ないことを断言したりしない
濡れていく路面は洗われるが
執拗な舗装も次第に剥がれて荒れていく
それは俺が日頃見ているものに似ている
俺が洗おうとしているものに似ている
路面は砕けて散らばるだけで済むが
俺が洗おうとしているものはたぶん血を吹き上げる
血塗れになって詩を叫べば幾らかのやつは本当だと思うだろう
もしもそこで読まれているのがただの円周率だったとしてもだ
グラスがひとつ割れる音を聞く
たったひとつだったものが数え切れない欠片になる
フローリングで溶けない氷のように光を弾くけれど
そのどれひとつとしてもう二度とグラスとして機能することは出来ない
おまけにそれは不用意な指先に結構な傷をつける
不器用に巻きつけた絆創膏に静かに血が染みていく
ブルース・ハープとスティールギター、1970年のローリング・ストーンズ
まだ幼さの残るミック・ジャガーはだけどすでに出来上がっていた
昨夜の寝不足が祟る頭をシェイクしながら
日付変更線でゼロになる前に
ああ、みんな、本当は誰も
本当に口にするべきことは判っているんだ
ロックンロールは反逆じゃない
ロックンロールは暴力でもない
ロックンロールは悟りなんかでもない
ロックンロールは
ロックンロールは
ただ、生きようとするための力なんだって
つい昨日のことだったか
古い雑誌で目にしたんだ
ビート、の語源はなにかを激しく叩き続けることって意味だって
なにかを激しく叩き続けること
たとえば寝不足で一日中ぼんやりし続けた頭とか
たとえばもう間に合いそうもない日付変更線とかね
ほら、だから、そう
激しく路面を濡らす雨だってビートだし
こうしてキーボードを叩き続けてる俺だってやっぱりビートなんだ
君はもしかしたらこれを読んで長ったらしいって思うかもしれない
こんなに長く書く必要はないって
でもそれは俺には短く書く必要がないってそれだけのことなんだ
日付変更線が過ぎればおそらく俺は夜明けを待つだろう
壊れてしまった眠りを時々つまみながら
どこかしらから窓を照らす夜明けを待つだろう
天気予報は明日も雨が降り続けるってことだけど
雨の朝だって明ければちゃんと明るくなることを俺は知っているからね
いつでも窓からどこかを眺めてる気分になる、こんな話をずっとしていると
雨がビートしている
うろたえる連中の声は
もう
ほとんど
聞こえない