人の孤独
藤山 誠

あるコックは料理をつくりました。
鍋からはじっくりと煮込まれたトマトの匂い。
テーブルには真っ白に洗われたシーツの上に、真っ白な皿が並ぶのでした。
コックは言いました。
「ひとさじのスプーンは、二人の口には入らない」
それからコックは、真っ白なお皿に、湯気の立つスープをそそいでいくのでした。

ある登山家は山にのぼりました。
耳が痛くなるほど静かな山の頂に雄々しく立ち、
その景色と、自然の偉大さに身震いするのでした。
登山家は言いました。
「一つの靴は、二人では履けない」
それから登山家は山を降りて、皆に写真を見せて回るのでした。

ある老人はベットに寝ていました。
桜の匂いのする午後に、窓からふわふわと光が入ってきていました。
白いカーテンは、柔らかくゆらゆらと風に揺れていました。
老人は言いました。
「死は、私だけを迎えに来たのだ」
それから老人は死んで、子供たちだけが残るのでした。

ある恋人たちは並んで歩きました。
男の子は晩御飯のことを考えていました。
女の子はお化粧のことを考えていました。
恋人たちは何も言いませんでしたし、
彼らはお互いに、相手が何を考えているのか知りませんでした。
それから恋人たちは手を繋いで、並んで歩いてゆきました。
ずっと孤独のまま、二人仲良く暮らすのでした。


自由詩 人の孤独 Copyright 藤山 誠 2015-08-29 20:53:55
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