黒い犬の話
小原あき

ある時は弟になりました
川に流された弟の
お姉ちゃんとお父さんを励ましました
お母さんはいなかったので
お父さんは一人で子どもたちを育てました
お姉ちゃんはお嫁さんになって
お父さんにありがとうをし
弟にさようならをしました


ある時は相棒になりました
妻を亡くしたおじさんの
軽トラックの助手席に乗り
畑に行きました
畑で汗を流すおじさんの
頬はいつもしょっぱくて
おじさんの布団の中は
太陽の匂いがしました
おじさんは妻に会いにいくために
畑にありがとうをし
相棒にさようならをしました


ある時は息子になりました
子どもが授からない夫婦の
心の穴を埋めました
奥さんは平たいお腹を眺め
いつもため息を吐いてました
そのお腹が少しずつ膨らんだ時
息子にありがとうをしました


ある時はおじいちゃんになりました
おじいちゃんに会えなかった赤ちゃんの
頬を優しく舐めました
小さな布団の中は太陽の匂いがする


赤ちゃんはおじいちゃんが大好きになりました
おじいちゃんは赤ちゃんにありがとうをし
本当のおじいちゃんに会いにいくため
その黒い犬は
夫婦と赤ちゃんにさようならをしました


小さな体で大きく吠える
その黒い犬を
みんなはミニィと呼びました








自由詩 黒い犬の話 Copyright 小原あき 2015-08-29 15:32:19縦
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