真鍮の都
あおば

         150829

乗務機は今は無き香港啓徳空港に近づいた
これからがおいらパイロットの腕の見せ所
いつもわくわくはらはらする一瞬だ
真下には白いビル群が白い墓石が群れ成して
おいらの腕前をせせら笑うかのように
白い肌を日に照らしてのっぽの胴を見せつける
こん畜生ども、いまに見ろとも言えなくて
今度も期待を裏切って見せてやる
おいらの華麗な技をその頑固な肌に焼き付けろ
頑固な硬い図体に浸み込ませろ
なんといっても、飛んでるおいらが偉いんだ
私は、初めての海外旅行でありまして
彼ら古強者の会話は一切、耳にも入りません
確かに新しく感じるビル群は整然と墓石の並ぶ
共同墓地に迷い込んだような感覚もあり
高層ビル群の商都の入り口付近を旋回する
最新型とも言えぬジェット旅客機の眼下の
世界一、着陸の難しい飛行場と聞き
少しだけ、怖くもあり、興味深くもあり
もとより、商売に不向きの私としましては
この次はいつ訪れるか判りませんが
ビル郡からの光の反射に、美しいと感じても
不思議ではありません
それとも、父祖が眠る共同墓地をぼんやりと
生きながら彷徨し続けているのかと考えて
真鍮の都ならぬ白亜の都の文字が目が浮かぶ
そんなことに耽っているから
ツアーの皆様にも遅れをとって足手まとい
の陰口を後でそっと耳にするのです
繁栄の都には住めないからに~と小声で呟き
やっとこさ暑い空気にもおさらばしたのです
さらばさらばふるきものちいさきものせまきもの
その名は忘却のかなたに巌にもなれずに朽ち果てて
土くれとなり、風に吹かれて好きなところに行くが良い
おいらはそんなことにはかかりあいたくないからと
紅顔の機長は微笑んだ
そんなこと思い出しているから世界情勢にも疎くなり
円安で大損したのも知らないで暢気にスイカが安いな
とほざきながら肌寒い寂れた商店街を彷徨くのさ


初出「即興ゴルコンダ(仮)」
  http://golconda.bbs.fc2.com/







自由詩 真鍮の都 Copyright あおば 2015-08-29 08:45:45
notebook Home 戻る