ループする人生
たけし
そのとき
両脇に親が眠り
その真ん中に
自分が横たわっていた
三歳の僕は夜中突然目覚め
それから眠れなくなった
<今、両脇で死んだように眠っている親達がいなくなったら自分はこの世界で全くの一人ぼっちだ、誰も助けてくれない!>
なぜか狂ったように突然そう悟ったからだ
(実際には「親がいない」というリアル―「親がいなくなったら」という仮定ではなく―に僕は曝されていたわけだが)
その時の「孤・独感」は
単なる一時的な気分とか子供特有の依存心とは全く関係のない
絶対的・圧倒的なもの
だった
<孤・独>というモノが
そこに一つの実体性を持って
確固として存在していたのだ
僕は一種の臨死体験をしていたのだろうか?
しかし
あの時死体のように感じられたのは
両脇で寝ていた親達の方で
自分自身は
その息遣いも生々しく
目醒めていた
そう、
途方もなく目醒めて
いつまでたっても眠りは訪れず
代わりに
眼前の闇がその艶めく濃密さを湛えてざわざわと蠢き
「ヴゥーッ」という低く持続的なモーター音が
どこからともなく響いていて
それらが
僕の脳髄を震わせ
じわじわと侵食していった
僕はひたすら眼前に広がる闇を凝視し
打ちのめされていた
〇 〇
人生が一回りし
54歳になった今
僕は親とは死別し
家族(妻(40)・長男(10)・長女(17))を離婚で失い
原因不明の病に掛かり
ワンルームマンションで独り暮らしをしている
三歳の時に突然覚醒した自我意識
その一時的現実をしかし
今度は日常的に生きているわけだ
なんなんだろうな
このループしているような帰結は
とふと思う
もちろん知人友人等が全くいないわけではない
ただ
二十年近く日常寝食を当然の如く共にしてきた家族
との絆が切断され
全く音信不通になってみると
夜中や朝方眼をさました折など
三歳のあの認識を現実に生きている
というより
生きるように仕組まれている
とひしひしと実感する
冷えきった身体で
時に発作的に叫び出しながら
そして闇に手を伸ばし<ナニモ・ナイ>というリアルを実感する
それは
実に空虚な濃密さ
だ
今の私が
いや人間が
何か大切なモノとの
緊密な関係を断ち切られている
という広漠とした予感に充ちた絶望恐怖
私がこれまでの自分の人生で
断片的に体験してきた
もう一つのリアリティとの深淵を。