◎捕囚
由木名緒美

ひとつの微笑みを基点として
暗喩の肖像をなぞるように
閉じた眼窩に灯す

瞬きをするより速く
私はあなたの核心に吸い込まれていった
すべての史生の機軸を発火前に戻してしまうことを
あなたは望んだのだろうか
視野の自律性さえ寛解して
あなたの細胞の一部となる
命を捧げるということ
その覚悟もせずに引いた引き金に
来歴のすべてを注ぎこんでしまった

幕は上がる
無慈悲に 楽観の極致に
義眼を落としたままま 光の明滅を感じて
輪舞が華やぐとこしえの夜に
時計の砂ははあらゆる幸先を沈めていった

この劇場を去る門はどこにあるのか
世界と幻の濃淡が淡く溶け合わされた合流地点で
真空の牢に身代りの喝采を繋ぎ止めても
やがては始点に行き着いてしまう

誰に見送られなくてもいい
有終の美は風化によって果たされる
手垢にまみれた奇跡を捨てて
悲劇の針が羅針盤をまわすだろう

恥じらいと慕わしさを
驚愕のうちに即興の誓いにしつらえて
あなたが貫いた眼差しこそが
灰となった終幕に一人、私を祭壇へと上がらせた

静かなる死と燃える業火の拮抗に
優美な音階は崩れかけた魂の止まり木となる
あらゆる汚辱の中でさえ叫び続ける歌声を
私は孕んだのだ

月が太陽を匿うように
大いなるものが小さなものに抱かれる
一瞬の暗闇の静謐の中
あなたを堕ろすために切り裂いた皮膚が
円環に昇る嬰児を抱きすくめる時を知るまでは



 














自由詩 ◎捕囚 Copyright 由木名緒美 2015-08-28 00:36:36
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