大人の虫歯
藤山 誠

ご飯をたべると、虫歯がずくずくと痛みます。
割れた歯の、その根元。
歯茎の奥にできたしこり。

女の人の肌を見ると、心がざわざわと毛羽立ちます。
誰にも言ってはいけないような、ぬめぬめとした黒い気持ちが、
胸いっぱいにひろがっていきます。

歯が痛いのが止みません。
心が、ざわざわし続けます。
そうなるともう、まったくなにも考えられなくなって、
腰の背骨に、熱い血潮がざあざあと流れていくのです。

クーラーをつけて寒くなった部屋で、
体臭のしみこんだ、まるで犬のような匂いのする毛布にくるまって、
ゆっくりと、ゆっくりと、黒い気持ちを育んでいくのです。

歯と心が黒くなっていくように感じられて、しかしそれを楽しんでいるのです。
もっと黒くて、もっと刺激的な気持ちが、きっと生まれると思うのです。

ほら、今も育っています。
ずくずく、と。
ずくずくずく、と。


自由詩 大人の虫歯 Copyright 藤山 誠 2015-08-26 03:31:41
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