一部に
あおい満月

剣のような針が
私の背中を追いかけてくる。
私は追いやられている。

70年前に首都や広島、
長崎をめちゃくちゃにした、
機銃掃射もこんな風に逃げ惑う人々を
追いやったに違いない。
赤い爪がビニール袋を手に、
私の部屋のパソコンをめちゃくちゃにする。

食い散らかされた部屋は、
小さな鼠が気絶している。
私はどこにいても、
一人で、板挟みだ。

※『夜の中の夜』という文章の髪に触れた。
私も夜の中の夜にいる。
指に絡みつく螺旋が
永遠に開くことのなくなる前の目になって、
細長い砂漠を見ている。

追いやられた私を救ったのは、
あの大きく澄んだ泉だ。
私は泉に向かって
ありったけの、
鼓動を搾る。
鼓動は花弁の汁になってあの喉を潤すだろうか。

私は雨になって土に染み込んで
その身体の一部になろう。



※柳美里著エッセイ集『魚が見た夢』より。



自由詩 一部に Copyright あおい満月 2015-08-25 22:31:30
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