貝殻と港のある遠い夢に
りゅうのあくび

産まれたばかりで
まだ間もない
黒猫を拾う夢を見た
朝を迎える港で
潮騒が聴こえる

僕はその秋まで
確かに遠い港の桟橋にいた
すでに真夏が
終わる記憶のなかで
南太平洋の海風が
緩やかに吹いていた

夜空にほのかに
灯されたランプで
小さな帆船を照らしながら
まだ見習いの僕らが
作った夕食と先輩たちで
大騒ぎする宴会をやっと終えて
寝静まったばかり
真夜中を過ぎると
いつの間にか
朝の眩しい太陽が
挨拶をしている

びっしりと岸壁には
牡蠣の貝殻が
張りついていた
初秋の潮風は
塩分が強くて
穏やかではなかった

小さな黒猫を拾う
夢のことは
気にも留めずに

当時こころの病気のことで
なお通院の必要があり
退船する機会を
得なければならなかった

ヨット部のなかでは
見習いの同輩が
合宿中に水分を
取ることが足らずに
肝臓がいかれて
やはり夏合宿の
生き残りが独り
退院をしたばかりなことも
気掛かりでいた

結局のところ
航海の安全を守るために
僕は遠い夏の
硬い貝殻に
なることを
決断したのだった

だから
もはや戻ることが
出来ない港のことを想うと
秋の海風のような
切なさをいつも感じる

やんちゃな秋猫と
まばたきを
かわすたびに


自由詩 貝殻と港のある遠い夢に Copyright りゅうのあくび 2015-08-25 21:09:44
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