ベイビースター
itukamitaniji

ベイビースター

ひとり部屋にうずくまって 灯りという灯りをすべて消すと
明るい世界に すっかり目が慣れていたせいで
その刹那 僕は自分の手のひらの位置すらすぐに見失った
僕はここに居ながらにして 宇宙へと旅に出たのだ

いわゆる本当の僕ってやつは 何処かに置き忘れたっけな
かつて暮らしていたあの街で 雨粒に濡れて震えているか
もしやあの人に預けたまま 返してもらってないのかもしれない
邪険にされてないとよいが 願わくば残っていてほしいが

人は生きているだけで 与えているのだという
ともすれば それは受け取っていることと同義だ
それならば 僕は僕が受け取ったものをどうしたのだろうか


いつかあの海で見上げた夜空 星々は犇めきあって輝いていた
互いに寄り添い合っているように そんな風に見えたけど
その実きっと 星々の間には途方もない隔たりがあって
互いに出会うことなど 以ての他ないことなのだろう

繋がっているように思えて 全く以て浅かったのだ
誰彼の名がゲシュタルト崩壊し始めた そこではじめて気がつく
僕らもあの星と一緒なのかもしれないと


たまらずに僕は暗闇の中を探した
何処かに光はないものか!
ディスプレイに散らばるSNSやブログの中
何処かに光はないものか!
片付かないままの引き出しの中
何処かに光はないものか!
かつて書きなぐった詩集ノートの中
何処かに光はないものか!

何処かに光はないものか!


人は生きているだけで 輝いているものなのだと
ともすれば 僕だって輝いていることと同義だろうか

どんなに与え続けても どんなに失い続けても
決して完全に消えることはないのだ そんな光のことを
僕たちは"心"と呼んだ 生きとし生けるすべてに宿った
途方もなく広い宇宙に浮かぶ 微かだが確かに輝く赤子の星の名だ


自由詩 ベイビースター Copyright itukamitaniji 2015-08-25 02:48:08
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