遠い気持ち
ひさし

わたしの居場所ってどこにあるんだろう。

そんなとこ、あるのかな。

会社にはないし、住んでる街にも、自分の部屋にさえないように思う。

電車に揺られていると考えちゃうんだ。

あるのは環境だけだなって。

こころを休める場所が欲しいなんて思わないけど、

一息くらい吐きたいよ。


ホームの階段を無数の足音が降りていく。

みんな、何を考えているんだろう。

遅めの夕ご飯、どうしよう。

そんなこと考えてる人、いませんか?

いたら、わたしのこと見てください。

歩くスピードを落としてみる。

みんな、私を追い越してゆく。

改札を抜けて、左右に分かれる。


わたしはスーパーに寄る。

何だか、食欲なくなっちゃったな。

でも、果物くらいは食べておこうっと。

リンゴをひとつ選ぶ。キウイもひとつ。

リンゴの発生するガスはキウイの追熟を早めるんだって。

ホントかな。

疑いつつも、固めのを選ぶ。

333円のお返しです。

え?

レシート、どうしよ。

333だよ。

財布に入れとく?

とりあえず、ね。


あ、変わっちゃった。

赤信号、長いんだよなぁ。

右手の信号の真上、

マンションとマンションの間に月が出てる。

毎晩通ってるのに、はじめて気がついた。

思いがけなさに、ちょっと驚いたよ。

ここから見える月って、大きいんだね。

もうちょっとで満月?

それとも過ぎちゃった?

そうか、わたし、そんなことも知らないんだ。

パチクリまばたきなんかをするとさ、

パラパラマンガみたいに満ちたり欠けたりしないかな。


信号が変わった。

横断歩道の中ほどで、

月はマンションの陰に隠れる。

明日の晩は、今晩より太ってるかな。

満月ならいいな。

満月なら、うれしいな。





自由詩 遠い気持ち Copyright ひさし 2015-08-25 02:30:31
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