叔父さんに
イナエ
今年も八月が終わります。
もう、命日の回向すらありません。
でも…
* * *
色褪せたフェルトで覆われたアルバム
生まれたばかりの従妹を抱いた叔母と
傍らに笑顔の叔父が立っている一枚の写真
今度の空襲はぼくらの住む町だと言う
密かな噂に促されて
母とぼくがリュックサックを背負い
風呂敷包みをひとつずつ抱えて
郊外の小さな祠の草むらで寒さに震えていた夏の夜
叔父の住む街の空が赤く焼け
B29であろう爆撃機が赤い灯を点滅させて
一機 一機 空に軌道があるかのように
同じ線上を西へゆったりと去っていった
遠くの方で
砲丸を地の中から撃ち出したような音が伝わって
夜空に赤い煙の塊ができたけれど
赤い灯の点滅は軌跡を乱すことなく進んでいった
小さな祠に 叔父たちの無事を祈りながらも
赤い灯の自信に満ちた点滅を見ていると
体の奥深く芽生えた畏れに ますます寒く震えていた
その夜
叔父は自ら作った防空壕から出した首を失った
叔母はこの不可解なできごとを目にして
それでも気丈に幼い従妹の顔を胸に抱き
長い長い空襲に堪え
翌日 焼け落ちた家の周りを探しまわったが
見付けられなかったと聞く
あれから七〇年
叔父さん 炎の中で失った首は
その後 見付かったでしょうか