オダカズヒコ




窓をあけ
洗濯物をサッととりこむ

旧式の黒電話を
ガチャンと切る

髪の毛を
ポニーテイルにしてみたり
変な格好をしてみたり
古びたノートの上に
点々と
「なぁに?」と書き込んでみたり

フレアスカートのポケットに
砂糖を入れ
くもったカフェの隅の席で
そっとカップの中に
塊りを半分落とす

私はそうやって
少しずつこの街を
占領していく

カップにミントを入れ
踏み倒した公団住宅の家賃の
架空の領収書に数字を入れる

私はそうやって
この国を
少しずつ占領していく

扉があくと
関係に区切りをつけるように
新幹線の扉は
またみんな閉まる

品川から列車は
私とヘブンスモーカーを乗せて
煙をたなびかせて運ぶ
男は
セブンスターを
背広の内ポケットから取り出し

差し戻すように
名刺入れに重ね
隣の女の手を握ったあと
また唇にはさむ

壊れたプライドが
打ち消していく言葉を
手のひらで持て余すように
唇から煙を吐き出す

日常の殺風景な景色の中に
消し込んでいくSOSの発信機が
ブルブルとテーブルの上と
椅子の下と
膝の間でふるわすように

女のガーターベルトをたくし上げ
そしてズッキーニを突き上げるように
男は私の中で
果てる


自由詩Copyright オダカズヒコ 2015-08-23 00:11:27
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