皿まわし狂言地獄
ただのみきや

――皿が割れた!
まわす皿はもうない
みんな落として割ってしまった
誰かのせいにしたくても
皿を落として割ったのは自分
落として割れたのは自分の皿
何事も寸分変わらない
仕方がなく
架空の皿をまわすことにした
この世に存在しない皿
落とすことも割れることもない皿を
ほんの手慰みのつもりだった
ところが奇妙なことに
皿をまわすふりが上手いと
足を止める者がぽつりぽつり
最近では御ひねりが飛んで来る
世の中そう捨てたものじゃない
なんて考えはとっくに捨てていたから
どうも皿まわし ならぬ 猿まわし
まわす方ではなく
まわされる方がお似合いだと
暗に言われているようで
どうにもやり切れなくなって
水道水の涙 軽石の頬
何もかも嫌になって
架空の皿をまわし損ねて
割ったふり
ついでに透明ロープで
首を括ったふり
虚空に架空がブラブラすると
かつてないほどの大喝采
やがて拍手は羽ばたく鳥の群となり
絵柄みたいに紅い空をぐるぐると
廻り 廻る いま 頭の中ゆっくりと
軌道を外れ 落ちて往く 一枚の

――皿が割れた!
まわす皿はもうない
みんな落として……



     《皿まわし狂言地獄:2015年4月29日》





自由詩 皿まわし狂言地獄 Copyright ただのみきや 2015-08-19 20:33:12縦
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