貴方へ
ヒヤシンス
時代を超えて鳴り響く鐘の音よ。
この夏の盛りにやって来る荘厳の響き。
この身を何度委ねたか分からない魔性の響きよ。
乳飲み子の眠りを妨げるのはやめておくれ。
閑散とした町の中でそこだけぽっかりと穴が開き、
紛れ込んだ異空間の漂い。
郭公が鳴き、小鳥が囀る久遠の空間。
快楽を凌駕する永遠のともしび。
枕を並べる悲しみに互いを理解する。
落葉松林に白樺は愛を重ねる。
避けてきた現実が日輪に炙られる。
今や鐘の音も郭公の鳴き声もない。
存在だけが経験によって創られる。
愛しい貴方、忘れられぬ貴方よ。