ターミナル
望月 ゆき
あなたがこどもになった朝も
遥かな場所で列車が発車し、低い速度ですすみ、
セイタカアワダチソウを揺らしている
イケブクロ ニ イキマス
イケブクロ ニ イキマス
と、くりかえしながら
道いっぱいに、線路を描くことに忙しいあなたは
しばしば 世界から忘れられた
血の滲んだつまさきだけが、痛みを主張するけれど
それは どこまでもよそ者でしかない
あなたはかつてそこにいた
あなたはかつて午前七時の東京メトロに
あなたはかつて高層ビルの窓に
あなたはかつてキリマンジャロの山頂に
自らの足跡を見下ろし
鳥が鳥であることを仰ぎ、
空が空であることを嘆き、
生はどこまでも退屈で、無限だった
あらゆる過去も未来も削ぎ落とし
名前さえも沈黙の不要物だ、そうして
やがてあなたは歌になる
イケブクロ ニ イキマス
イケブクロ ニ イキマス
あなたがあなたの中にかえってゆく
ひとり、またひとりと 剥がれ落ちて
そこに誰もいなくなっても
描かれた線路は、昨日を弔い
今日と明日を縫合しながら ゆっくりと
その先のターミナルへと続いていく