あの人
あおい満月

一本の消えた蝋燭を残して、
あの人は消えた。
残ったものは蝋燭と、
色褪せた指輪たち。
あの人は完全に脱け殻になった。
あの人は完全に写真や切手になった。

私は今を探して
必死に埃を振り払う。
あの人の体温を消すために、
井戸水のように
冷たいシャワーを浴びる。
髪の毛の先から、
肌の毛穴から
あの人が流れていく。

(もう、これでいい)

そう思いきった瞬間から、
私はあの人との記憶を書くことを決めた。
空は、
八年前の夏と同じような
湿り気をおびた
鈍色だった。
夏草の上に線を引いて、
ここからが、
俺たちのスタートだと、
手をとりあったあの左手は、
ぬるい汗にまみれていた。
血によく似た、
赤い、熱い記憶。



自由詩 あの人 Copyright あおい満月 2015-08-14 19:53:19
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