軋み音
あおば
150814
玄関前で御免と大声を放つ
限界前の軋み音に似ていて
どこか危険性を帯びていて
女中は急いで迎えに出た
女中の居ない家では奥方
奥方が居ない時は年嵩の子供らが
なにごとかとお伺いに出る
誰も居ない時は子供が出る
回覧板ですと言うと
黙って受け取った
愛想のない奴だと思う
危険性の無い私には
少しくらい愛想を振りまいても
良さそうなものと思うのだが
身分違いなのかもしれないと思う
我が家には玄関と呼べるような部屋は無く
引き戸の内側のコンクリの三和土には自転車が
空気入れが、太目の縄が巻いて
雑然と立っていて、入りやすいが威厳には欠ける
しかし危険性は無い
身分違いの人だって平気で入ってくる
ただ偉い人だけは、入らないで戸の外側で用件を伝えて
それ以外はなにも言わないでそそくさとかえる
空気が汚れているかのように、ぼそぼそと告げる
序曲の後には本題に入るのだが
序曲だけ有名で、中身はなんだか分らないものも多く
いつの間にか玄関は、不要となってしまった
女中部屋があるような家を除いて、新築の家には無くなった
公団アパートの普及で、入り口は一つとなり
勝手口も無くなり、身分の差は気にしなくて良くなった
身分の差に拘る人は、豪邸を建てたがる傾向にあるかもしれない
裏口から入り、裏口からそっと出る、黒装束の一団が
君の家の家宝を狙っているかもしれないと
裏口を閉鎖して表口だけにしたのが、現在の作りだ
鑑定団の御蔭で家宝も価値を失い
秘宝館に入りたがる人たちは減少の一途を辿り
絶滅してしまういそうな雲行きになっているというのに
政府はなにも対策を立てようとはしていないようにも見える
かように絶滅寸前のものが多すぎて手に余るのかもしれないが
オリンピックを招致するくらいの余裕があるならば
なにかの対策を立てるべきだと私は声を大にして訴えたが
身分違いとのことで、入場は拒否され、今に至る。