看板と表札
為平 澪

大都会へ行けば行くほど大きな看板がある
当たり前だよね
こんなゴミゴミした場所で 目的地のホテルに行くには
デカイ看板でもないと無理

大きなホテル程 大きな看板が名乗りをあげて
そこでイベントや授賞式やインタビューやスピーチがありまして
来賓席に座る人の椅子には 名誉の看板がぶら下がる

その代名詞にあやかりたい人が
看板をペンキで塗り立てあげたり、拝んでみたり、磨いてみせたり、
色とりどりに色鮮やかに目立って光る

ネオンが虹色に変色する街で
見上げた巨大な看板にたくさんの「 我 」が飛んできて
くるくる回って貼り付きたがる

人の持っていない、人より大きな、人より特殊な看板を
背負って肝心の「 表札 」を無くした者もいるのに
夜のうわべを飾り続ける華やかな看板

グランドホテルの看板が これからどんなにきらびやかに大きくなっても
そこに自分の名前を一生刻んで住み続けることも
親の仏壇を背負い込むこともできないのに
エライ人は看板の作り方や経緯や光具合が肩書き文字が大好きで
何処からともなく看板の 大きさめがけてやって来る

看板の真下から伸びた影の指す先に崩壊していく私の家庭
日照権すら剥奪された暗くて黒い表札たち

私の家族や本名をよんでほしいといいながら
腐った蒲鉾板のような表札が
誰にも磨かれることもなく
私の帰りを独り待つ


自由詩 看板と表札 Copyright 為平 澪 2015-08-09 01:43:51
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